手のなかで、光がうつっていく ― 新しい光のおもちゃ SHAKE SYNC の物語
振ると、光の色が変わる。もうひとつのブロックにそっと近づけると、色がとなりへ「うつる」。ただそれだけのこと。でも、その手のなかの小さな出来事に、子どもも大人も、なぜか時間を忘れて見入ってしまう。
SHAKE SYNC(シェイクシンク)は、そんな「光で遊ぶ」ためのブロック型プロダクトです。ここでは、この作品がどうやって生まれ、どこが面白いのかを、少しだけ長めに書いてみます。
最初は、魚だった
すべての出発点は、SHAKE SYNC そのものではなく、大阪大学の研究室にありました。
大阪大学 産業科学研究所の神吉輝夫先生が研究していたのは、LED をロウソクの炎のように"ゆらがせて"光らせる技術。人が心地よいと感じるリズム、いわゆる「1/f ゆらぎ」を、電子回路で生み出すものでした。均一に点滅するのではなく、生きもののように揺らめく光。技術としては確かなのに、「これを何に使えばいいのか」という出口が、まだ見つかっていませんでした。
その光に最初に惹かれたのが、ゼロバイゼロでした。私たちは神吉先生と連携し、このゆらぐ光を使った最初のプロトタイプ作品「Fish(フィッシュ)」を制作します。魚のかたちをした、ゆっくりと呼吸するように光るオブジェ。前の一匹が放った光を次の一匹が受け取り、また次へと渡していく——テーブルの上を、光が魚の群れのように流れていきます。研究室の技術が、はじめて"作品"として手のなかに現れた瞬間でした。

この Fish は、2016年、世界最大級のデザインの祭典・ミラノデザインウィークの若手登竜門「サローネサテリテ(SaloneSatellite 2016)」(イタリア・ミラノ)にも出展しました。音に反応するキャンドルライト「Kvel(クベル)」とともに並べ、群れのように呼応して流れる光の新規性と美しさは、海外の来場者からも高い評価を受けました。
いま思えば、この「光がとなりへ受け渡されていく」という Fish のふるまいこそが、のちの SHAKE SYNC の核になる発想でした。
魚が、ひし形になった
転機は、博報堂関西支社のクリエイティブチーム「HACKTS(ハックツ)」との出会いです。大学に眠る優れた技術を、生活者に届くプロダクトへと"発掘"していく——そんな志を持ったチームでした。
Fish をベースに開発が進むなかで、デザイナーの中山紗織氏の手によって、魚のかたちは少しずつ姿を変えていきます。そして最終的に、たどり着いたのが ひし形 でした。
このひし形には理由があります。角度は 72 度。5 つ並べると、ちょうど 360 度——つまり、花のかたちになる。三角形のようにも、四角形のようにも組める。ひとつのシンプルな形なのに、つなぎ方しだいで花にも、輪にも、塔にもなる。「かたちを増やすのではなく、ひとつの形で光をストイックに楽しむ」。装飾をそぎ落とし、素材も障子紙のような乳白色の半透明樹脂を何十回と試して選び抜きました。シンプルなのに、体感はまったく新しい。その一点に、みんなが賭けたのです。

遊び方は、いたってシンプル
SHAKE SYNC の遊び方に、説明書はほとんどいりません。
- シェイクして点灯する。 振ると、光がともる。
- さらにシェイクして、色を変える。 もう一度振れば、色が移り変わっていく。
- となりに近づけて、色をうつす。 ブロック同士が呼応して、光が受け渡される。
- 遊び終わったら、シェイクして消灯する。
一列に並べれば「光のドミノ」になり、パズルのようにつなげば、花や魚、花火のような"光の絵"を描くことができます。どう光らせ、どう移していくかを考える——その過程が、いつのまにかプログラミング的な思考や、感性や創造力を育てるきっかけになっていく。1 セットは 8 ブロックと充電器。発する光は例の「1/f ゆらぎ」なので、デジタルなのに、ずっと触っていても不思議と疲れません。

インタラクティブアートに、何ができるだろう
そもそも私たちは、ひとつの問いから出発していました。インタラクティブアートは、どんな社会的価値を生み出せるのだろう?
SHAKE SYNC がとりわけ力を発揮するのが、発達障害のある子どものケアの現場です。ぼんやりと 1/f のリズムで揺らぐ光には、高ぶった神経をそっと落ち着かせる「スヌーズレン」的な効果があります。それだけではありません。振る・近づけるといった自分のちいさなアクションが、そのまま光の"アート"として返ってくる。この手ごたえが、ふだんは能動的に物事へ取り組むことのむずかしい子にも、「自分からやってみたい」という気持ちのきっかけを生みます。
自発的に手を伸ばす動作を引き出せることから、リハビリテーションへの活用も期待されています。積む、広げる、色を変える——遊び方は無限で、できあがる"作品"は一人ひとりまったく違う。人から認められる経験の少ない子が、表現を通じて周囲とコミュニケーションをとり、支援者はその表現から「青が好き」「積むのが好き」といった、その子ならではの個性に気づいていく。感性の鋭い子の、まだ知られていない才能を見つけるきっかけにもなります。
これまで、こうしたスヌーズレンの効果をねらった機器は大掛かりな設備が中心で、手のなかで気軽に扱えるミニマムなプロダクトはほとんどありませんでした。「リラックス(1/f ゆらぎの、ぼんやりした光)」と「探索(触れて、近づけて、光が反応するインタラクション)」を掛け合わせる——その発想こそが、SHAKE SYNC のいちばんの芯にあります。
障害のあるなしに関わらず、子どもと大人がフラットに並んで遊べる。「青が好き」「円が好き」——そんな表現の個性を、おたがいに認め合える。アートの力で壁をとっぱらい、みんなが同じ地平で楽しめる世界へ。SHAKE SYNC は、その可能性を差し出すプロダクトでもあるのです。
音をつなぐ、という挑戦
光がとなりへ「うつる」のなら、音だってつなげるはず——。
ゼロバイゼロは、音響機器メーカーの TOA とのコラボレーションで、SHAKE SYNC の発想を音へと拡張する実験にも挑戦しました。光を受け渡すように、ブロックからブロックへと音を伝えていく。「つなぐ」という体験を、視覚だけでなく聴覚にも広げていく試みです。手を動かすと光が変わり、音が連なる。その相乗効果が、遊びの没入感をさらに深めてくれました。
世界へ
SHAKE SYNC は、国内外のさまざまな場所で発表されてきました。
SXSW 2018(米国・オースティン)では、博報堂ブースの「CARESS YOUR BRAIN.(脳をかわいがる。)」というテーマのもと出展しました。テクノロジー起点ではなく「人」を起点に、感情や身体感覚にやさしく働きかけるプロダクトを集めたブースです。言葉の通じない海外の来場者が、振れば色が変わり、近づければ色がうつるという仕組みに、説明ぬきで夢中になり、その場で動画を撮って SNS に拡散していく——そんな光景が毎日くり返されました。
このとき現地で強く感じたのが、「余白」の大切さ でした。SXSW のトレードショーに集まる人たちは、完成された "Great Product" よりも、たとえ未完成でも "Amazing / Interesting Idea" に出会いにきている。「こう使うべき」という正解がなく「あとはあなた次第(It's up to you!)」と手渡せる余白の多いものほど、来場者は一瞬考え込み、やがて自分なりの使い道を嬉しそうに語りはじめる。SHAKE SYNC が言葉の壁を越えていけたのは、まさにこの"余白"のおかげでした。
その後も、Maker Faire Tokyo 2018 をはじめ、岡山(RSK 山陽放送)での展示、キッテ名古屋のクリスマスイベントなど、光をきっかけに人が集まる場所へと広がっていきます。キッテ名古屋では、あのひし形のブロックがそのまま巨大なクリスマスツリーになり、来場者がシェイクシンクを振ってツリーの色を変えられる、インタラクティブなイルミネーションになりました。



なにが楽しいのか
最後に、いちばん大事なことを。SHAKE SYNC は、「こう遊びなさい」と決めつけない道具です。
正解の遊び方がないから、子どもは花をつくり、大人はただ光の揺らぎをぼんやり眺める。全面を鏡張りにした屏風の前に並べれば、光が乱反射して、小さなブロックが没入的な光のインスタレーションに変わる。技術も、かたちも、とことんシンプルにそぎ落としたからこそ、遊ぶ人の想像力がそのぶんだけ入り込める。SXSW で手ごたえを感じたあの「余白」こそが、SHAKE SYNC のいちばんの発明なのかもしれません。
振って、変えて、うつして、並べる。その手ざわりのなかに、「見る」だけでも「つくる」だけでもない、光との新しい関わり方があります。ぜひ一度、手にとって振ってみてください。
実際に、手にとって遊べます
2026年9月12日(土)・13日(日)、品川区総合区民会館「きゅりあん」で開催される 品川アーティスト展 2026 にゼロバイゼロが出展します。会場では SHAKE SYNC を実際に手にとって遊べるほか、ブロックで花や魚、花火などをつくるミニワークショップも開催。この記事で読んだ「振ると光がうつる」あの感覚を、ぜひ会場で確かめてみてください。
- 作品ページ:SHAKE SYNC(シェイクシンク)
- 公式サイト:shakesync.com